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女性起業家が社会を変える

2012/05/14 23:50

 

 白書といえば、分厚く取っつきにくい政府刊行物の代表のように受け取る向きも多いが、実はさまざまな情報が詰まっており、読み方次第では大変有用な書物に変身する。

 

 このほど発表された2012年版中小企業白書なら真っ先に女性の起業を取り上げた部分に目を向けるべきだろう。特に東日本大震災と福島第1原発事故のダブルパンチに見舞われた福島県にあるNPO法人「素材広場」を紹介しているところが注目点だ。

 

 素材広場はリクルートのじゃらん事業部勤務後、故郷の会津若松市に戻って起業した横田純子さんが理事長を務めている。

 

 福島県内の野菜や果物などを地元で消費する地産地消を実現するため、生産者と県内の旅館やホテルの経営者らをつなぐネットワークをつくり、宿が地元の素材を使うような仕掛けをつくった。観光産業の振興とともに風評被害に負けないようにと福島ブランドの再構築にも貢献している。

 

 柔軟な発想によって新規需要が掘り起こされる。それが女性の雇用につながるだけでなく、地域や社会に変化をもたらしていく。女性起業家がドンドン育っている状況は少子高齢化やデフレで閉塞感が強い日本経済に活力をもたらす役割が期待できよう。

 

 しかし、問題は家事や育児、介護などを抱え、経営との両立に悩む女性経営者が多い点である。求職活動をしていないが、就職を希望している女性の数は約342万人。求職しない理由として女性が挙げる理由の約3割が「家事・育児」だ。

 

 とはいえ、そうした困難についても女性同士が集まって何とか打開していこうとしている。白書が紹介するのは地元産米粉を使用してパンやケーキなどを製造・販売している長野県の有限責任事業組合「こめのこ工房なごみや」だ。ここでは家事や育児という課題を複数人が集まることで支え合っているという。

 

 政府や多くの企業が女性の働く環境整備をおろそかにしている間にも、共に工夫して働く場を確保しようとしている。女性起業家らの柔軟な取り組みには脱帽である。

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次の牽引役は医療機器だ

2012/05/07 12:57

 

 潜在的競争力があるのに海外展開が進んでいない製造業分野は何か。真っ先に挙がるのは医療機器だろう。

 

 日本の中小企業は自動車や電機分野で培ってきた成形、切削、研磨などの優れた技術を持っている。こうした企業群が世界の医療機器メーカーに部品を供給し、完成品でも世界に打って出るようになれば、日本経済の牽引(けんいん)役になる可能性を秘めている。

 

 すでにコンピューター断層撮影(CT)などの画像系といわれる機器では日系企業は世界のトップレベルだ。巨額損失隠し事件で激震が走ったオリンパスだが、内視鏡分野で世界シェア7割強を占める収益力は健在である。

 

 決め手は世界の医師が習熟している内視鏡がオリンパス製品であるため、簡単に他社製品に乗り換えることができない点だ。医療機器が家電製品と違うのはそこで、重要なのは単にすぐれた製品をつくるだけでなく、医師が継続的にその製品を使い続けるような仕掛けをつくれるかどうかだ。

 

 日本貿易振興機構JETRO)海外調査部の桜内政大氏によれば、欧米企業は組織的に対応している。例えば、欧米の大学には世界中の医師が留学や研修で集まっており、そうした大学に機器や資材を提供し、手厚く教育訓練することで、本国に戻っても同じ製品を使い続けるという。

 

 中国インドなどアジアの医療機器市場は2015年までに10年比約2倍に拡大すると予測されている。欧米はアジアの大学への攻勢も強めている。日本もうかうかしていられない。

 

 古川元久・国家戦略担当相は先月(4月)、米国系医療機器日本法人の新社長就任パーティーで挨拶し、5月中に「医療イノベーション五カ年戦略」を作成すると明言した。治験や承認審査に時間がかかるなどの問題点を改善し、医学と工業をいかに連携させていくか。政府の後押しが欠かせないのはいうまでもない。

 

 だが、もっと必要なことは多くの中小企業の果敢な挑戦だ。まずは毎年秋にドイツで開催される世界最大の医療機器展示会MEDICAに試作品を持って参加してはどうか。

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器を替えれば味も変わる

2012/05/01 15:48

 

 ワイン好きには当然のことかもしれないが、比べて味わってみて、なるほどと納得した。ワインの種類や産地によってグラスの形を替えて飲んでみると驚くほど味が違うことだ。

 

 その夜はソムリエの資格保持者が一緒だったこともあり、ボルドーとブルゴーニュの2タイプのワインを別々の形のグラスでそれぞれ味わってみた。やはり、勧められた通りのグラスで飲む方がおいしいと感じた。

 

 グラスの形によって口元に運んだときのワインの流れ方が変わり、口の中に入ってきたワインが舌のどの部分に最初に触れるかで味が変わる。理屈はそういうことのようだ。

 

 オーストリアの老舗ワイングラスメーカーのリーデル社はそれにいち早く着目し、生産者と共に、それぞれの産地のワインが一番おいしく飲める最適な形状のグラスをつくったという。

 

 その日のきき酒はワインにとどまらなかった。理屈は同じだろうと日本酒の飲み比べにも挑戦した。やってみると日本酒もグラスの形状によって味が大きく変化した。

 

 地酒ブームが定着し、純米酒や吟醸酒など香りを楽しみ、甘さ辛さ、温めるか冷やすかなど飲み方にこだわる消費者も多くなった。今後はワインのように産地によって器を替える飲み方も大事になってくるだろう。酒蔵自らがさまざまな器を試して、最適な形状を具体的に提案してはどうだろうか。

 

 実際のところ、リーデル社が金沢市にある老舗酒造メーカーの福光屋から依頼され、日本酒用のグラスを作るなどの動きがあったという。ソムリエにあたる「きき酒師」の認定制度も本格化しつつある。

 

 今後、中小のガラスメーカーなどと提携し、科学的検証によって酒蔵ごとに最適な器がつくられれば、消費者の満足度も高まるだろう。

 

 日本酒の輸出を積極的に手掛ける酒蔵も出てきた。単なる消費にとどまらず、味わうという経験を大切にし、その経験をトータルでサービスすることで文化的価値にまで高めていく。そうしたデザイン思考による売り方を考えていけば、日本酒の市場は世界に大きく広がるはずだ。

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鉄道復旧は現実的選択を

2012/04/23 11:57

 

 東日本大震災の被災地で鉄道復旧をめぐる議論が沸騰している。JR東日本が山田線と大船渡線、気仙沼線の3路線で、線路を舗装して列車の替わりにバスを走らせるBRT(バス高速輸送システム)方式による復旧を検討しているのに対して、地元はあくまで鉄道再建を要望しているからだ。

 

 東北の太平洋沿岸の鉄道建設が長年の悲願とされ、1984年にようやく一本につながった歴史的経緯を踏まえれば、BRTへの地元の反発は理解できる。だが、震災前から赤字路線だったことと少子高齢化を直視すれば、BRTの方が現実的選択ではないか。

 

 被災地では高台への集団移転構想や地盤沈下した市街地を別の場所に移す計画などが持ち上がっているが、いつまでに、どこまで実現するかがはっきりしない。一方で、高齢化に伴って運転免許証を返上するお年寄りが増えている。高齢者に郊外から町の中心部に移ってもらって生活の利便性を確保するコンパクトシティ構想も喫緊の課題として浮上している。

 

 そうした今後の社会の変化や市街地再建の進捗(しんちょく)状況にあわせて交通網を整備するにはルートやダイヤを柔軟に編成できるBRTの方が優位性が高いだろう。例えば、一部区間は専用道路から一般道路に乗り出して仮設住宅などを経由するルートも可能だし、なにより鉄道に比べて建設費が安い。復旧までの時間も大幅に短縮できる。

 

 むしろ、バス事業こそ見直すべきではないか。福島交通、岩手県北自動車の経営再建を担っている経営共創基盤CEO(最高経営責任者)の冨山和彦氏によれば、被災地でのバス依存度が高まっており、事業は黒字転換を果たした。震災に伴う鉄道網の寸断や高齢化だけでなく、イランの核開発問題などに絡む原油高騰で「脱自家用車が進んでいると実感している」ともいう。

 

 高台に移された住宅地や再建された市街地が交通網が整わず、わずかな期間でゴーストタウンになってしまっては元も子もない。被災地が日本の課題先進地と見る視点を失わず、今後の中長期的社会の変化に柔軟に対応できる選択が大事だと思う。

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年金改革 発想の転換を

2012/04/14 08:46

 

 米銀のバンク・オブ・アメリカが7年前から始めたキープ・ザ・チェンジ(お釣りを預金しよう)というサービスがある。米国はカード社会。日々の買い物ではデビットカードが使われることが多い。これは「お金をためたい」と考えている顧客向けの「無意識の預金」を促すサービスだ。

 

 例えば、スーパーで買い物して代金が4ドル50セントだったとする。通常はその額が当座預金口座から引き落とされるが、このサービス契約をすると区切りのよい単位の5ドルが引き落とされ、差額の50セントが貯蓄預金口座に自動的に振り替えられる。消費すればするほど知らず知らずのうちにチェンジ(お釣り)がたまる仕掛けだ。

 

 日本の年金の危機、その財源にあてるための消費税増税をめぐる国会の議論が混迷している状況を見るにつけて思うのは、なぜこうした発想にたどりつかないのかという点だ。

 

 実は日本でも10年以上前に年金制度改革に向けた「消費税積み立て還付制」という構想が上智大の大和田滝惠(たきよし)教授によって提案されている。買い物の度に消費税分が個人が持つICカードなどにポイントとして積み立てられていくというものだ。

 

 少子高齢化で世代間の相互扶助に頼る現行制度は破綻してしまっている。そこで個人ごとの年金積み立てに移行しようというのが大和田案。こちらの方が若者らの理解も得やすく、しかも徐々に年金がたまる貯蓄効果によって社会全体に消費が増え、経済が上向くとの期待も膨らむ。


 だが、財務省も政党も真剣に考えようとしない。「貯蓄を強制するのは困難」「ICカード管理が難しい」など最初から否定する意見が多い。

 

 そろそろ発想を転換するときではないか。消費税増税とセットで個人の所得や納税、社会保障給付の情報を一元管理する「共通番号制度」の導入が予定されている。「おサイフケータイ」など決済時のIT(情報技術)利用の拡大も著しい。大和田案実現のハードルはだいぶ低くなっている。停滞感が強い時代だからこそ、斬新なアイデアに着目すべきだ。

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「協業」が日本企業を救う

2012/04/08 09:39

 

 シャープ新社長に就いた奥田隆司氏が掲げるキーワードは「協業」だ。

 

 これまでシャープは部品から製造装置までを社内で作り上げ、技術が出しないように秘匿した上で一貫生産体制をとってきた。いわゆる「亀山モデル」で有名な垂直統合戦略だ。

 

 しかし、低価格に加えて技術力を磨いて台頭してきた韓国企業の攻勢で、高品質・高価格のシャープ製品は苦戦を余儀なくされるようになった。

 

 奥田氏は会見で「グローバル市場の戦いにおいて単独での垂直統合には限界があった」と敗北宣言をした。その上で「研究開発から設計、生産、調達、販売、サービスに至るまでをすべて手がけるのではなく、その中に協業を含めていく」との新方針を示した。

 

 日本企業は「インテグラル(すり合わせ)型」といわれる高い技術力を武器に高品質の製品をつくるのが得意だ。これに対して、韓国企業は部品の標準化を進めた上で、世界中から最適部品を集めて、そこそこの品質でも地域ニーズに合わせた低価格品をつくる「モジュラー(組み合わせ)型」といわれる戦略に特化した。

 

 残念ながらグローバル大競争時代にはモジュラー型の方がより適しているようだ。奥田氏の発言は、日本の家電メーカー凋落(ちょうらく)の原因がすり合わせ偏重にあったことを意味している。

 

 そこでシャープは変革の一歩に台湾・鴻海精密工業グループと提携した。このグループはアップルのiPhoneやiPadの製造組み立てを受注している。中小型液晶パネルが得意なシャープは協業で巻き返す戦略だ。

 

 とはいえ、韓国勢のまねだけでは起死回生はない。そこでヒントになりそうな手法を慶応大学の保井俊之特任教授が新著「『日本』の売り方 協創力が市場を制す」(角川oneテーマ新書)で説いている。

 

 協創力とは「人と人をつなげてネットワークを作り、それを活用して集団の叡智(えいち)を引き出し、革新的なアイデアやデザインを生みだす力」だという。要は抜け駆けではなく、ライバルとの間でも利益を共有する「つながり」を構築することが肝心のようだ。

 

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「ぬれ手でアワ」を疑おう

2012/03/23 11:10

 

 

 AIJ投資顧問の年金資産消失問題は「ぬれ手でアワ」を助長する投機への戒めだ。

 

 多くの企業年金が巨額の資金を預けたあげく、損を膨らませた現実は、労せずにもうけることの難しさの例証にとどめるにはあまりにも影響が大き過ぎる。AIJが企業年金から預かったのは約1500億円。それを運用で2000億円超に増やしたように見せかけていたが、実際の残高は80億円程度だという。


 他の資産運用会社の専門家らが「ありえない運用成績」と疑っていたAIJの投資実績の宣伝文句を、企業年金の担当者らは盲目的に信用していた。

 

 

 証券取引等監視委員会がAIJの強制調査に乗り出し、詐欺などの事件に発展する可能性も指摘されている。しかし、企業年金側の「プロではないから見分けられない」という言い訳は正当化されまい。

 

 企業年金の責任者は、運用によって社員の老後の資金を堅実に増やすことが責務だ。そもそも、年金資金を自らが理解できないような投機性の高いデリバティブ(金融派生商品)で運用すること自体が責任の放棄といわれても仕方がない。

 

 投機では極端なゼロサムゲームを強いられる。日本のバブル崩壊後の20年間の株価の低迷と低金利の下では「ハイリスク・ハイリターンを狙うのはやむを得なかった」といった言い訳も、損を被った社員らを納得させるに十分ではない。

 

 改めて認識すべきは投機と投資の違いだろう。投資は本来、双方が利益を得るウイン・ウインの関係が成り立つ。例えば、投資を受けた新興企業が事業を大きくし、雇用を増やし、景気にもプラスに作用する一方で、投資した側にも利息や配当が入るというつながりだ。

 

 しかし、IT(情報技術)を駆使する今の投機は実体経済からかけ離れた資金バブルを助長し、マネーゲームの末に、2008年の「リーマン・ショック」のように世界経済を破綻のふちに追いやるほどの力を持ってしまっている。


 「芝浜」という古典落語がある。何の苦労もせずに利益を得てはお天道様に申し訳ないという話の筋立てだ。そろそろ、企業年金もバブルの夢を追わず、生活に根ざした実体経済に役立つ投資に目を向けるべきだ。それがAIJ問題の最大の教訓ではないか。

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「情報銀行」でグーグルに対抗を

2012/03/08 22:01

 

 米グーグルのプライバシーポリシー変更が波紋を呼んでいる。

 

 これまでバラバラだった検索や電子メールなどのサービスで集めた個人情報をひとまとめにすることで各個人に最適な検索結果を提供でき「利便性が高まる」という。
 

 これに対して、欧州連合EU)、米連邦議会議員、人権擁護団体などが相次いで懸念を表明した。個人情報の利用目的が曖昧かつ大量に統合されることで重大なプライバシー侵害が起きかねないというのが理由だ。日本でも個人情報保護法で個人情報は目的外の使用が禁止されており、厳密に適用すれば、グーグルの新方針は法律違反の可能性が出てくる。

 

 しかし、たとえ法的な問題が発生しても、新たな挑戦をためらわないのがグーグルだ。各国で訴訟が起きているストリートビューを始め、ネットで世界中の図書館の蔵書にアクセスできるようにするプロジェクトも著作権侵害をめぐる論争に発展している。

 

 今回の情報の一括管理を許すかどうか、新法で縛るかどうか。各国とも悩ましい問題を突き付けられた形だが、個人がネットを使うことによってグーグルだけでなく、ヤフーなど他の検索サービス会社、携帯電話会社に膨大な個人情報が蓄積されていくという現実を無視することはできない。

 

 とすれば、個人がそれぞれの情報を個別管理できるようなシステムを構築することこそ、より建設的ではないか。すでにそのような考えに基づく「情報銀行」構想がある。東京大学空間情報科学研究センターの柴崎亮介教授らが提案しているアイデアだ。

 

 この銀行には個人口座ごとにその個人の情報が名寄せされており、企業はその個人に利用料を払って情報を入手できる。グーグルなど特定の企業が情報を独占できないようにする点でユニークだ。

 

 自分の情報を誰が使っているのか、何に使っているのかをいつでも把握できる環境整備ができれば、個人は安心できる。いやなら、その情報の使用を止める権利がある。情報銀行づくりに官民が知恵を出すことがグーグルに対抗する有効な方法ではないか。もちろん情報銀行法によって情報の盗難や、横流しに対して厳罰で臨むのはいうまでもない。
 

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「ガラパゴス化」を生かそう

2012/03/02 02:00

 

 日本で「ガラパゴス化」といわれると商品やサービスが国内でしか通用しないことを指し、マイナスのイメージでとらえられることが多い。

 

 だが、発想を変えれば、洗練された技術や商品、サービスが独自に「進化」しているという見方もできる。むしろ、ガラパゴス化したものの中にこそ、世界で通用するものがたくさんあり、そこに産業振興の鍵が潜んでいるといえるのではないか。

                   ◇

 例えば、洋食器で有名な新潟県燕市の磨きの技術がある。複数の金属加工会社が「磨きやシンジケート」を結成し、ジェット機から携帯電話、半導体製造装置部品などにいたる金属研磨・表面処理を世界中から請け負っている。ステンレスのビアマグカップなどのオリジナル商品もある。

 

 塗装の際に、塗ってはいけないところを汚さないために貼る「マスキングテープ」も日本では独自に進化した。いまでは雑貨用品店などにカラフルでデザインもさまざまなテープが販売されており、ラッピングや装飾、メモ帳などに利用されている。欧米にも輸出されるようになって、関連業界は建設以外の分野での売り上げが急拡大しているという。

 コクヨがインドの文具メーカーを買収したのも、入念な市場調査の結果、「ドット入り罫線」など日本のこだわりのノートを含む文具類がアジア市場でも通用するとの確信が持てたからだ。

 

 日本がお家芸とする顧客の要望に細かく対応する「すり合わせ型ものづくり」についても、コマツの建設機械やシマノの自転車部品のように、低コスト競争とは一線を画した技術力やサービス力を持って生き残っているところも多い。

 

 経営コンサルタント会社のベイン・アンド・カンパニー・ジャパンのマネージングディレクター、火浦俊彦氏が指摘するキーワードは「成熟社会」だ。「生活を楽しむ視点でつくられた商品は単価が多少高くても売れている。そこに今後の日本再生のヒントがある」という。

 

 しかし、関係者の狙いや思惑がかみ合わず、産業振興に直結しない場合もある。例えば、くぎやビスを使わない伝統的な木造建築では、それを残していこうとスギやヒノキの国産材を使った住宅に自治体が補助金を出すところが少なくない。

 

 しかし、林業関係者によれば、住宅メーカーが現在、注力している太陽光パネル付き住宅では、国産材が使われるケースはほとんどないという。

 

 パネルを載せる屋根の土台の部分は「材質が均一な合板でないと強度が正確に測れない」というのが理由らしい。しかし、何らかの工夫のしようがあるのではないか。こうした建築業界の対応がちぐはぐでは伝統の技を世界に広げるどころか、衰退を加速させるだけである。
 

 ガラパゴス化の典型的な例としてよく使われるのが日本の携帯電話だ。しかし、よく考えてみれば、今世界中で売れている米アップルの「iPhoneアイフォーン)」もガラパゴス化した商品といえる。なぜなら、スティーブ・ジョブズ氏が自ら機能美と操作性にこだわって作り上げた独創的な商品だからだ。

 

 アイフォーンが提供しているアイデアの多くは日本メーカーでも検討されていたとされる。ところが、日本メーカーが決断できない間に、アップルだけでなく、韓国メーカーにも大きく出遅れてしまった。

 今後の日本の産業振興について、三菱総研チーフコンサルタントの奥田章順氏は「何をつくるかを決め、そして日本独特のものを活用していくことが重要だ」と指摘している。

 

 その独特なものとは、日本の歴史的な財産や、高度経済成長期以降の経験や実績だという。例えば、環境分野では公害対策や環境保全対策、エネルギー分野では省エネ、健康分野では高度医療、医療制度などだ。すでに、アニメなどを含む日本文化については「クールジャパン」というキャッチフレーズで世界に発信を始めている。

 

 産業振興の種は国内にある。ガラパゴス化した日本は、世界が成長モデルを探る先進地だと認識すべきである。

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ソニー復活の鍵は愉快なる精神

2012/02/26 15:14

 

 「音が進化した。人はどうですか」

 

 このナレーションとともにサルが湖のほとりでウォークマンを聞いているシーンを覚えている人も多いだろう。1987年頃に流れたソニーのCMだ。携帯用音楽プレーヤーという独創的製品を世に出し、ソニーが最も輝いていた時期である。

 

 そして、その頃にウォークマンを手にした世代は「技術と先進性のソニー」という記憶がしっかり刷り込まれている。

 

 しかし、そうした見方とは裏腹に技術で稼ぐ方針をソニーはだいぶ以前に捨ててしまったのではないか。少なくとも、ハワード・ストリンガー氏がトップに就任して以来、映画と音楽ソフトを携帯やパソコン、テレビなどの家電機器と組み合わせて付加価値で稼ぐ戦略だった。もっとも、ウォークマンにしても、技術面では先進的なものではない。

 

 とはいえ、ストリンガー氏からトップを引き継ぐ平井一夫副社長に対するプレッシャーは相当なものだ。日本の家電メーカー総崩れの中で、ソニーの凋落(ちょうらく)も著しい。「ものづくり日本」はどうなってしまったのか。そうした声とともにソニーと日本の衰退を重ねる見方が根強い。

 

 そうした状況に臨むソニーの戦略はどうあればいいのだろう。回答は難しいが、今のソニーに薄れてしまったが、以前は確かにあったのは、その商品を使って顧客が楽しいと感じる「顧客体験」を尊重する姿勢ではないだろうか。それはウォークマンに学んだアップルのスティーブ・ジョブズ氏(1955~2011年)がiPhoneアイフォーン)で顧客がワクワクできる操作性を研究する部門を自ら直轄していたほど重要なことだ。

 

 一方、今の日本の家電業界の苦境から明らかなことは大企業が設計から製造、販売まで手掛ける垂直統合モデルではもはや世界では戦えないということだ。

 

 だが、日本の高いものづくりの技術は中小企業の中にたくさん蓄積されている。問題はそれが、うまく水平統合されず、新技術や新産業が生まれない点だ。そう考えるとソニーの復活は「自由闊達(かったつ)にして愉快なる理想工場」という創業者の井深大氏(1908~97年)の精神を取り戻すことに行き着く。それを自社だけでなく他の企業と共有していければ、ソニーも日本のものづくりも強くなっていけるのではないか。

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